ひっとかくれ

ただのブログ

『染、色』 感想

もう配信も終わったので、うまく言葉にできないながらも感想を。ネタバレ含みます。

出版当時に原作を1度読んだきりで、舞台見に行く前には読み返しておこうと思っていたのですが、すっかり忘れて当日を迎えました。
一体あの短い話をどんな風に舞台化するのか、舞台が難解でつまらないものになっていやしないかと心配でドキドキしながら向かいました。
QRコードによるチケットだったので当日まで座席が分からなかったのですが、わりとギリギリな時間に到着したことと最前列と分かった動揺によるドキドキも加わってやばかった。
難解といえば難解かもしれないけれど、心地よい複雑さで、とても満足度の高い舞台でした。最後の台詞の「今から会えないかな」の後に続く物語を、小説を読んだ当時まったく想像つきませんでした。そして舞台を見終わった今も、想像つかないんです。ずっと抱えていたい問いをもらったようで、それが面白さのひとつかな。

舞台にかけた思いみたいなものをパンフレット表紙のこだわりからも見て取れたので、中止にならず実際に公演ができたこと、本当に良かった。
よくこのヘビーめなお話をジャニーズが主演したなぁ。いい意味でジャニーズ感がなくてよかったです正門くん。他の出演者さんたちもめっちゃ良かったです。真未役の三浦さんがとてもかっこよかったです。声が良くて軽率に惚れそう。あとなんか友人役の人が間宮祥太朗に見えてしかたがなかった。笑

登場人物が増えてることについては、まぁ舞台化するにあたって肉付けしたんだな程度に思っていましたが、展開が私の記憶にある小説内容と違ったので、あれ?こんなこんなだったか??って疑問と驚きが。舞台終演後にすぐ近くの本屋に寄って原作を立ち読みし、自分の記憶を確かめました。笑
私の記憶に残っている短編小説の染色の香りがありつつも、小説とは大きく異なる作品でした。
よく見たらストーリーだけでなく人物名なんかも変更になっていたんですね。パンフレット内でシゲが居抜きで店が変わった感じと称したのが、言いえて妙だなと思いました。

特別でありたいけれど何物でもない、社会に適合しなくてはならないけれど飲み込めない、挑戦と諦念の狭間で揺れている、というような大学生の心情が感じられて、なんだか心がもぞもぞしました。かつて大学生だった頃の自分の不安定な情緒に通ずるものがあるように思ったし、そして今も実は消化できずに心のどこかに隠れていそうな気持ちで……。
とても上手いこと大学生を、人間らしさを描いているなと思ったし、それをよく演じているなとも思いました。

私はまったくもって美術に興味がない人間なので、小説を読んだ時にグラフィティのイメージが湧かずにいたのですが、今回の舞台で映像を使ってのグラフィティを見れて良かったです。美術の造詣が深ければ、あのグラフィティからも何か読み取れる意味等があるのかな?あるのならば考察を聞いてみたいところです。

小説と違って、実は真未は深馬の作り出した幻覚というか多重人格(?)であったという展開になってて驚きました。そう持ってくるんだ!?って。映像だと違和感がすごいだろうし、映像作品ではできない、舞台だからこそできる展開だと思いました。
途中、深馬の彼女である杏奈が就活面接を受けている手前で、深馬と真未がセックスしてるっていうシーンがあって、うわぁえげつない演出するじゃんって思ったんです。それが、真未が実は幻ってなったら尚更えげつなく感じる。こっわ。この見せ方が脚本によるものなのか、演出家さんによるものなのか分からないですけど、心えぐってくるなぁって感心しました。
ただ、この真未が実在しないって深馬が知った後、これまで2人で行っていたグラフィティが1人によるものだったという追想シーンがあるんですが、冗長だなって思いました。シゲらしくはあるんですけど。
しかし追想シーンがあることによって、じゃあ1人で再現できないと思われる天井付近のスプレーは?今ここで自慰してる深馬の姿は現在なのかそれとも幻覚を見ていた頃のなのか?それともオーバーラップしてる感じなのか?そもそも真未がいるって思ってた頃の友人や先生とのやり取りってどうなってたんだろう?という部分が曖昧というか混濁させられてる感じがして、それが狙いなのかなぁという気も。
まるでカラースプレーのシンナーによって、くらくらしてしまったみたいな感覚。

見てよかった!!って思える舞台でした。
演出もすっきりシンプルながら繊細で引き込まれる感じで好きだったので、瀬戸山さんが携わる作品にも注目していきたいです。
改めて思うけど、推しが演者としてでなく原作・脚本として素敵な舞台を生み出してるこの世界線……やばいね。
『染、色』の戯曲が今後ジャニーズとは関わりのない劇団なんかで上演されても面白いと思うんだけど、その世界線はさすがにないかな?笑
シゲの脚本がとても良かったし、それを上手く表現してくれた演者やスタッフさんたちに感謝しています。
これからも加藤シゲアキの活躍に期待が持てると確信できる作品でした。